働きたくても働けない女性美容師の新しい職場が活況
日本全国にいる美容師の数は125万人にのぼるというが、そのうち休業状態を余儀なくされている美容師の数は75万人にも達する。実に半数以上の美容師が働きたくても働けない状態で、その理由はお産や子育て。
休業中の75万人のうち、大半が女性であり、彼女らは「働きたいという希望はある」というので驚いた。実は、キャリアも資格もあるのに、こうした女性が多いのは日本ならではの長時間勤務にある。
美容師の場合は、シフトで休みはとれても、それ以外の通常勤務の日は仕事を終えるのが夜中になることも多い。競争が激化し、人気が出れば客からの指名も増えるのでそうなるらしい。
しかしここにきて、自宅待機状態のこうした女性美容師にも一筋の光がみえてきた。それは何かというと、時間に縛られない訪問美容師というサービスが全国に広がりはじめたこと。仲介する会社を通して、好きな時間を選び客先である自宅に訪問する。
一軒当たり3時間を要するが、忙しくて髪を切りに行く時間のないキャリアウーマンから、介護状態にある高齢者、それを支える介護役の主婦など、このビジネスには想像を超えた引き合いがある。
さらに、抗がん剤治療で自宅にこもるしかない闘病中の患者には、薄くなった頭髪のケアや、医療用ウィッグの手配・試着、購入までを面倒みている。働きたくても働けない女性美容師と、美容院に行きたくても行けない客のマッチングが実り、新しい関係が築かれつつある。
“女性のプロ”だから、医療用ウィッグにもきめ細かい
たとえば要介護者に対して、ボランティアのような格安の値段で訪問する美容サロンはこれまでにもあった。
しかし「ボランティア=サービス=無料」という概念が根付いてしまった日本では、それが発展することはむずかしい。いただくものは正規の料金をいただかなければ、提供する側の生活が成り立たないからだ。
かつて「巣ごもり需要」という呼び名で、外出しない事情のある人々の実態をレポートした番組があったが、そのときに注目されたのは通販という小売り・配送産業(モノの配達)だった。いま注目を集めているのは、サービスや技能の宅配である。
世の中の半数は女性、それを支える技能者の半数も女性。自分の意欲を生かせずに家庭の中に縛り付けられてしまう現状は勿体ない。
たとえば医療用ウィッグなどの選択や手配も、髪に知識がある美容師だから選別の目は絶対的。しかも女性であれば、地毛が失われていく辛さもわかっている。
美容師だから同性として遠慮なくケアの手ほどきもできる~。訪問介護とは関係なく、外出できない女性の悩みに寄り添うことで、噂は話題となり人気となって、人々を助けていく。
病院では相手にされない、ウィッグサロンに行っても妥協するしかない、ネットで買っても不安や不満は残る。そういう人たちにとっては思いがけない救いの手となっている。